用語解説
「意のままにならない他者」 【いのままにならないたしゃ】
- 「すなわち人間は、生を与えられたそのとき以来、「意のままにならない他者」に囲まれ、そうした〈他者存在〉との〈関係性〉によって「私」となってきた。そして「意のままにならない他者」との〈関係性〉が「内的緊張」を伴うものだからこそ、われわれは〈間柄〉や〈距離〉といった仕組みをさまざまな形で活用し、「中核的他者」との間に円滑な〈関係性〉を実現させようと奮闘してきたということである。」 (上巻 222)
〈他者存在〉の本質を述べたもので、「意のままにならない身体」と並んで、〈有限の生〉を「肯定」する〈世界了解〉の出発点となるもの。また、こうした「意のままにならない生」を生きることを了解していくための言葉や意味として、人間存在が〈思想〉を創出する契機(存在理由)となるものでもある。
「人間的〈関係性〉」においては、こうした「意のままにならない他者」を体現する差異性や異質性が「私」に対して何かを語りかけ、それに「私」が応答を試みようとすることを通じて「意味のある〈関係性〉」が成立する。
〈社会的装置〉に依存する「〈ユーザー〉としての生」が成立すると、人々は一切に拘束されることのない「ありのままの私」を切望するようになるが、それは事実上、自身にとって都合の良い他者(「意のままになる他者」)を求めることを意味する。
しかしそうした〈関係性〉においては、「意味のある〈関係性〉」が成立しないため、したがって「意味のある私」もまた成立することはない。
なお、人間存在がこうした〈他者存在〉との〈関係性〉を結ぶことが避けられないことを、本書では「意のままにならない他者の原則」(〈有限の生〉の第三原則)とも呼ぶ。