ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「意味のある〈関係性〉」 【いみのあるかんけいせい】


 「特定の存在が“他者”として現前するのは、それが“自己”に対して意味を持って区別されたときである。そして“意味がある”ということは、そこに何らかの〈関係性〉が成立しているということに他ならない。つまり「現存する顔見知りの人間」にはじまり、浜辺の小石のような「無生物」に至るまで、あらゆる存在は、自己に対して「意味のある〈関係性〉」を成立させ、それによって“他者”となるのである。」 (上巻 207-208



 差異性や異質性を含んだ「意のままにならない存在」として語りかけてくる〈他者存在〉に対して、人格的主体としての私が、応答を通じて何らかの意味を見いだした〈関係性〉のこと。

 例えば「私」は、亡き「祖父」と対峙することによって、自身の人生をも顧みることができるが、「祖父」の人生のなかには、「私」が望まない過去があるかもしれないし、「私」にはその不本意な事実を消すことなどできない。しかしそうした側面が含まれているからこそ、「私」と「祖父」の〈関係性〉には、重厚な意味が形作られると言える。

 〈社会的装置〉に依存する「〈ユーザー〉としての生」が拡大すると、人々は自身にとって都合の良い「意のままになる他者」とのみ関わりたいと願うようになるが、「意味のある〈関係性〉」が成立するのは、相手が「意のままにならない他者」だからであるため、結果として〈自己存在〉は揺らぐことになる。