ディスカッション


未来世界を哲学する―環境と資源・エネルギーの哲学)
未来世界を哲学する
環境と資源・エネルギーの哲学


〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈社会的装置〉 【しゃかいてきそうち】


 「こうした事態を内包する〈自己完結社会〉であるが、そのひとつの本質は、われわれが自らの生、つまり生きることを、高度な社会システムに全面的に委ねてしまうことにある。ここでは社会システムという表現を用いたが、それは科学技術のもたらす無数の「モノ」、例えば情報、機械、薬剤といったものの巨大な集積物であると言っても良い。……本書ではその巨大な何ものかのことを〈社会的装置〉と呼ぶ。そしてわれわれはこの〈社会的装置〉にひとりひとりばらばらに結びつき、もはやそれなしでは生きられないほどに深く依存しているのである。」 (上巻 ⅳ



 現代社会において人々が依存する巨大な“社会システム”のことを指し、より具体的には、近代以降に成立した「官僚機構」「市場経済」「情報世界」を中心として、そこに情報技術、ロボット/人工知能技術、生命操作技術などの成果が複雑に絡み合う形で現前する。

 この〈社会的装置〉への依存によって〈生の自己完結化〉〈生の脱身体化〉が進行すると同時に、「〈生〉の三契機」の文脈が不可視化される「〈生〉の不可視化」「〈生活世界〉の空洞化」が引き起こされるが、それによって人々はまさに〈ユーザー〉としての「自由」と「平等」を獲得するという根源的な矛盾が含まれている。

 〈社会的装置〉の起原は、「環境哲学」の視点から見れば、人類が自然生態系のうえに築きあげた「人為的生態系」としての〈社会〉の延長にあるものとして理解されるが、「〈生〉の分析」の視点から見れば、〈生の舞台装置〉としての〈社会〉の延長にあるものとしても理解される。

 とはいえ、その特徴は人々の行為を特異な形で調整する機能にあり、〈社会〉を構成している成分のうち、「意味体系=世界像」の成分が矮小化し、「社会的構造物」「社会的制度」の成分のみが突出しているという分析もできる。