ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈生の脱身体化〉 【せいのだつしんたいか】


 「〈自己完結社会〉にはもうひとつ、本書で〈生の脱身体化〉と呼ぶ事態が含まれている。それは主として科学技術の進展によって、われわれが“身体”という鎖からますます解放されるということ、そしてそれに伴い、身体に由来するさまざまな事柄が従来の意味を失っていくことを指している。」 (上巻 ⅱ



 〈自己完結社会〉の成立に伴う具体的な現象のひとつで、〈生の自己完結化〉と対になる概念。より具体的には、情報機器、アンドロイド、生命操作など、生活のあらゆる局面に科学技術の成果が入り込み、身体を活用した直接的な経験が縮小するのみならず、人々が身体に規定された存在として生きる必然性を失っていくこと。

 身体および、身体に由来する物事が生に対して意味を持たなくなることで、人々は存在論的な動揺に直面するものの(〈生の混乱〉をめぐる第一の意味)、まったく同一の現象が、汚いもの、臭いもの、痛いもの、醜いもの、残酷なものから人々を解放すると同時に、携わるべき仕事、住むべき場所、関わるべき他者、そして結婚や出産、育児に至るまで、生を規定するあらゆる物事を自由選択へと移行させる。

 つまり〈ユーザー〉としての「自由」と「平等」が拡大するための条件を整備するという意味において、「あるべき社会」の実現を促進させるという根源的な矛盾を含んでいる。