用語解説
〈役割〉 【やくわり】
- 「これまでわれわれは、この社会学的な「役割」概念に相当するものを、敢えて〈間柄〉という概念を用いて説明してきた。それは本書が、この〈役割〉概念に対して、ここで単なる〈間柄〉には収まらない特殊な含意を付与したかったからである。それはすなわち、〈共同〉に際して何ものかを担う、あるいは何ものかを引き受けるものとしての〈役割〉の概念に他ならない。」 (上巻 265)
「共同行為」としての〈共同〉の負担を軽減させる「〈共同〉のための作法や知恵」の原理のひとつで、〈共同〉に際して何ものかを担う、あるいは何ものかを引き受けること。
社会学では、役割(role)概念は、G・H・ミード(G. H. Mead)やH・G・ブルーマー(H. G. Blumer)、E・ゴッフマン(E.
Goffman)らの系譜において、社会的関係性のなかで付与される外的な規定(関係性の枠組みや振る舞いの型)のことを指すが、本書ではそれらに相当するものを〈間柄〉や〈間柄規定〉と呼んで〈役割〉概念とは区別されている。
本書の〈役割〉概念において強調されているのは、〈関係性〉のなかで生きる人間存在には、自らの意志によって選択できない属性や条件、規範や価値づけなどを引き受けなければならない場面があるということであり(〈有限の生〉の第二原則=「生受の条件の原則」および第三原則=「意のままにならない他者の原則」)、より良い「共同行為」が成立するためには、ひとりひとりのそうしたものへの向きあい方が問われてくるということである。
もちろん「割り当て」られるものの公正性を問い、そのあり方を見直すことは必要である。しかし選択できない「割り当て」を前にして、それを単純に受動や強制と見なし、自らの境遇を嘆いたり、呪ったりしていても何もはじまらない。
「人間的な〈生〉」の現実において重要なことは、むしろ逃れられない現実のなかにあっても、そこに自ら積極的な意味を見いだすことはできるということ、換言すれば、自らの置かれた状況を引き受け、そのなかでの「より良き〈生〉」を希求することはできるとういことの方である(「担い手としての生」)。
ただし、こうした〈役割〉の力にも限度があり、例えば人が見いだす多くの意味は、あくまで個人的なものであり、それを皆で共有するためには多大な労力と時間を要する、また付与された〈間柄〉に対して、決してすべての人間が意味を見いだせるわけではないということも事実である。その意味において、われわれは常に〈共同〉を避けられない現実のなかで、その明暗の両側面を見据えつつ、生きていかなければならない。
なお、こうした「〈共同〉のための作法や知恵」としての〈役割〉の原理に関連する概念として、「〈間柄〉を引き受けるものとしての〈役割〉」、「世間や世俗、時代を超えた〈役割〉」、「青年たちとすでに青年を終わらせた者たちとの間の〈役割〉」がある。また、「〈共同〉のための作法や知恵」の原理として、他にも〈信頼〉の原理と〈許し〉の原理がある。