ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈生活世界〉 【せいかつせかい】


 「その〈生〉は、生身の人間にとっての〈生〉、すなわち〈生活者〉としての〈生〉である。そして外部から二重の〈環境〉として見えていたものは、ここでは〈生活者〉が〈生〉を実現するための舞台、あるいは具体性を帯びた“生活の場”として現前することになるだろう。それを本書では、改めて〈生活世界〉と呼ぶことにする。要するに、こうして浮かびあがる「人間的〈生〉」の諸相こそが、ここで人間という存在を描きだすための、第二の枠組みとなるのである。」 (上巻 144



 人間存在が〈生存〉〈現実存在〉〈継承〉からなる「〈生〉の三契機」を実現するにあたって、その舞台となる〈生活者〉にとって等身大に現前している世界のこと。

 「〈生〉の三契機」の実現を〈社会的装置〉への委託することによって成立する「〈ユーザー〉としての生」が拡大すると、〈生〉を成立させている物事つながりや意味の文脈が不可視化され(「〈生〉の不可視化」)、それが個々の人々には、〈生〉を実現することに対するリアリティや、等身大の〈生活世界〉の喪失として感受される(「〈生活世界〉の空洞化」)。

 なお、A・シュッツやJ・ハーバーマスを含む社会学で言うところの「生活世界(Lebenswelt)」概念は、人間が相互行為などを行う際にその背景として存立している意味的世界のことを指しており、本書の〈生活世界〉概念には、こうした概念から物質的な〈環境〉や、〈生存〉という契機、「暮らしとしての生活」といった文脈が抜け落ちていることを批判する意図も含まれている。

 本書では、〈生活世界〉を立体的に成立させている骨格のことを、「〈生〉の舞台装置」としての〈社会〉と呼ぶが、意味的世界としての「生活世界(Lebenswelt)」は、その一成分である「意味体系=世界像」とを指すものとして整理されている。