ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈現実存在〉の実現 【げんじつそんざいのじつげん】


 「ここでの〈現実存在〉とは、人間が他者とともに〈生〉を営むという本質的特性を持つことの宿命として、〈生活世界〉という場において、集団の一員としての自己を形成し、また構成員との間で情報を共有し、信頼を構築し、集団としての意思決定や役割分担を行っていくことを指している(12)。この〈現実存在〉の契機は、人間存在の“社会性”という側面に位置づけることができる。」 (上巻 147



 人間存在が“生きる”と表現する営為の根幹にある「〈生〉の三契機」のひとつで、「暮らしとしての生活」があったうえでの「精神としての生活」に結びつき、人間存在の社会性という側面を象徴する。

 また、「ヒト」として生まれた人間が社会的関係性を通じて後天的に「人間」としての自己を確立していく「受動的社会化」と、〈生活世界〉の内部に生じる諸々の問題を引き受け、それらを日々解決していくという「能動的社会化」という二つの側面が含まれている。

 西洋近代哲学の人間観においてしばしば特権的な地位を占めてきたが、より根底にあるのは〈生存〉の実現であり、われわれはもともと「集団的〈生存〉」を実現するためにこそ「〈生〉の舞台装置」としての〈社会〉を必要とし、その十全な運営を実現のためにこそ〈現実存在〉の実現を必要とするようになったと考えることができる。

 なお〈現実存在〉は、哲学的概念としての「実存」(existential)概念と重なる部分があるものの、「実存」概念はJ=P・サルトルなどの影響で、自己の可能性を自ら選択し、実現させるという、きわめて私的で実践的な響きを持つようになっているため、本書では〈現実存在〉と表記している。