ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「第二期:戦後復興から高度経済成長期まで(1945年‐1970年)」


 「続いてわれわれは、「第二期」が、構造転換の“過渡期”に相当する時代であったことについて見ていく。戦後の改革と復興の時代を経て、日本社会は高度成長の時代へと移りつつあった。多くの人々が大挙して都市部へと移動し、社会全体に“豊かさ”が拡大しつつあった。そうしたなか、確かに「〈共同〉のための事実」は浸食され、農村部では生活組織の形骸化が進んでいただろう。それでも全社会的に見れば、〈共同〉のための人間的基盤は、未だ〈故郷〉の記憶を共有する人々の間で存続していたのである。」 (下巻 4



 〈自己完結社会〉が成立していく様子を、日本社会の具体的な歴史過程に即して論じた「〈生活世界〉の構造転換」のうちの第二の期間で、GHQによる占領下における五大改革、新憲法の発布、日米安全保障条約を契機とした西側陣営への加入にはじまり、欧米並みの生活水準の向上、充実した社会保障、そして完全雇用の実現を含む高度経済成長期まで(1945年‐1970年)の期間のこと。

 思想史的には、「悪しき戦前」と対置されるものとしての「平和主義」と「民主主義」を掲げた、「再建と理想の時代」によって特徴づけられる。とりわけ丸山眞男らによって〈自立した個人〉の思想の最初の形態が形作られ、60年安保闘争を契機として権力と闘争する「良心的市民」の理想像、「平和主義」と「民主主義」を対抗軸とした政治的左右(右翼と左翼、保守と革新、自民党と社会党)の枠組みがこの時期に確立した。

 加えて〈生活世界〉の実態としては、「〈生活世界〉の構造転換」全体における“過渡期”に相当し、都市部では農村部から流入した大人口によって急激な経済成長が起こり、近代化された“健康で文化的な生活”が庶民にまで拡大することで、〈社会的装置〉に依存して生きる「〈ユーザー〉としての生」の条件が整いつつあったが、農村部では人口減少が進んだものの、〈生活世界〉の重厚な人間的基盤は依然として機能しており、ここではそうした二つの世界が二重構造として並立していた。

 なお本書では、この時代に青年期を迎えた人々のことを、〈故郷〉から旅立ち(それゆえ〈故郷〉に帰るという選択肢を潜在的に保有する)、豊かな生活や戦後的理想という“夢”に邁進した世代であることを象徴して、〈旅人(世代)〉と呼ぶ。