ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈根源的葛藤〉 【こんげんてきかっとう】


 「当初から内在していた矛盾は、ここで「集団的〈生存〉」の水準を高めれば高めるほど、より深刻なものとなっていたに違いない。そこでは「私の〈生存〉」と「皆の〈生存〉」が異常なまでに接近していながら、決して一致することはなく、明確な断絶を含んでいるからである。本書ではそのことを、人間存在の〈根源的葛藤〉と呼ぶことにしよう。」 (上巻 158



 「人間的〈生〉」の根幹においては、「私の〈生存〉」と「皆の〈生存〉」が限りなく一致していながら、同時に完全には一致していないという矛盾のこと。

 もし最も単純な形で「集団的〈生存〉」を高度化させたいのであれば、その答えは個体性の消滅であるが、個体性が残されたまま突出した「集団的〈生存〉」を実現するところに、生物存在としての人間の特質が現れている。

 ここで最も重要なことは、この〈根源的葛藤〉の負担を軽減させる補助装置として、人間は「社会的なもの」、すなわち「〈生〉の舞台装置」としての〈社会〉を生みだす能力を獲得したのではないかという洞察である。

 〈根源的葛藤〉は、文字通り根源的なものであるため、実生活の心理などに直接出現するものではないが、人間が形作る物事に対してさまざまな派生的な影響を与えることになる。

 例えば〈社会的装置〉に依存する〈ユーザー〉同士が、互いに〈ユーザー〉であるという点を除いて媒介するものが存在しないとき、関係性を構築することはきわめて難しくなり(これを内に秘められた〈根源的葛藤〉の露呈と解釈することもできる)、このことが〈関係性の病理〉に対する「〈生〉の分析」(第二のアプローチ)からの説明となる。

 また、「〈関係性〉の分析」(第三のアプローチ)において言及される「内的緊張」は、この〈根源的葛藤〉が「人間的〈関係性〉」の文脈において現れたものだと考えることもできる。