ディスカッション


未来世界を哲学する―環境と資源・エネルギーの哲学)
未来世界を哲学する
環境と資源・エネルギーの哲学


〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「内的緊張」(〈関係性〉における) 【ないてききんちょう】


 「すなわち人間は、生を与えられたそのとき以来、「意のままにならない他者」に囲まれ、そうした〈他者存在〉との〈関係性〉によって「私」となってきた。そして「意のままにならない他者」との〈関係性〉が「内的緊張」を伴うものだからこそ、われわれは〈間柄〉や〈距離〉といった仕組みをさまざまな形で活用し、「中核的他者」との間に円滑な〈関係性〉を実現させようと奮闘してきたということである。」 (上巻 222



 「人間的〈関係性〉」において見られる〈関係性〉の負担の形で、大きく三つの種類がある。

 第一は、「実像‐写像」の「内的緊張」であり、それは相互の「〈我‐汝〉の構造」を通じて、互いが理解し、望んでいる〈関係性〉にずれが生じることによってもたらされる。

 第二は、〈間柄〉がもたらす「内的緊張」であり、〈関係性〉を「形式化」させる〈間柄〉が、自らの望まない振る舞いを強制されることによってもたらされる。

 第三は、〈距離〉がもたらす「内的緊張」であり、相互が理解し、望んでいる「距離間」の間にずれが生じることによってもたらされる。

 「かけがえのない私」の理論、「ゼロ属性の倫理」「牧歌主義的―弁証法的共同論」「積極的自由」の概念など、西洋近代的な人間の理想である〈自立した個人〉の思想と深く結びついてきた人間モデルは、「人間的〈関係性〉」において生じる負担を、自由な意思や自己決定を阻む外力や権力構造に求め、〈関係性〉に与える抑圧がなくなれば、あたかも負担のない〈関係性〉が成立しうるかのような錯覚をもたらす傾向がある。

 しかしここで重要なことは、われわれは〈間柄〉や〈距離〉の原理を用いて〈関係性〉の負担を軽減させることはできても、負担を伴わない〈関係性〉というものははじめから存在しえないとう事実(〈有限の生〉の第三原則)である。

 なお、一連の「内的緊張」は、「〈生〉の分析」(第二のアプローチ)から照射された〈根源的葛藤〉(「私の〈生存〉」と「皆の〈生存〉」が限りなく一致していながら、同時に完全には一致していないという矛盾)を、「人間的〈関係性〉」の文脈において捉えなおしたものだとも解釈できる。