用語解説
「絶対的普遍主義」(「普遍的な真理」)、「絶対的普遍主義の否定」(「現代人間学」の第二原則) 【ぜったいてきふへんしゅぎ】
- 「次に第二の原則となる「絶対的普遍主義の否定」であるが、それはこうした「〈思想〉の創造」を試みる際、「現代人間学」においては、それを決して唯一絶対的な意味での「普遍的な真理」として希求することはない、ということを意味している。」 (上巻 5)
この世界には「普遍的な真理」なるものが内在しており、またわれわれ人間は理性の力によってそれを明らかにすることができるとの前提に立ち、実際にそれを希求する立場のこと。
「絶対的普遍主義」は、西洋近代哲学が目指した理想的な知のあり方であったが(こうした傾向は、ギリシャ哲学に始まり、I・カント(I. Kant)を中心とした近代哲学において頂点に達し、「ポストモンダン論」による異議申し立てが行われるまで西洋哲学の中心的な位置を占めてきた)、本書が依拠する「現代人間学」では、敢えてそれを求めない。
というのも本書では、いかなる人間存在も特定の「時代」やさまざまなものに限界づけられることによって(「不確実な未来の原則」=〈有限の生〉の第五原則)、厳密な意味での絶対的な「正しさ」に到達することは不可能であるとの認識から出発するからである(とりわけ人文・社会科学が対象とする問題には、抽象的な意味や価値の文脈が必ず含まれており、それは決して唯一の正解に至ることはない)。
本書の立場では、絶対的なものを求めることはむしろ〈無限の生〉への扉を開き、現実否定の「無間地獄」や、誤った形での「正しさ」の暴挙さえ生みだす原因にさえなる。ただしこのことはあらゆる〈思想〉が一切の議論が成立しないほどの相対主義にいたるということや、「〈思想〉の創造」という営為に、普遍性をめぐる一切の契機がないということを意味しない。そこには特定の時代と境遇を生きた人々が共通して直面していた、限定された意味での「普遍性」は依然として存在するからである。
「現代人間学」が重視するのはこうした意味での「普遍性」であって、たとえそれらが相互に矛盾を含んでいたとしても、それぞれの〈思想〉が何らかの必然性を保持している限り、そうした「普遍性」の共存を志向する。
なお、「絶対的普遍主義」の起原のひとつは、ギリシャ哲学における「観照(theoria)」にまで遡ることができる。もうひとつの起原はルネッサンス期のキリスト教であり、神の似姿を与えられた特殊な被造物である人間が、この世界に内在する絶対的なものを「神の視点」に立つことによって掌握できるという信念である。