ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「共同の動機」 【きょうどうのどうき】


 「さらに着目しておきたいのは、これまで繰り返し論じてきた、関係性における“必然性”の問題、増田敬祐の言う「共同の動機」に関わる問題についてである。……したがって「共同の動機」というものがあるのだとすれば、それは「〈共同〉のための事実の共有」、「〈共同〉のための意味の共有」、そして「〈共同〉のための技能の共有」という条件が満たされることによってはじめて出現してくることになるはずである。逆に、現代社会に「共同の動機」が働かないのだとすれば、それは〈生の自己完結化〉によって、いずれの条件も破綻し、加えてそれを円滑に実現していくための〈役割〉、〈信頼〉、〈許し〉を含む作法や知恵もまた失われたからだと言えるのである。」 (上巻 284-285



 増田敬祐が「生命と倫理の基盤――自然といのちを涵養する環境の倫理」(竹村牧男/中川光弘監修/岩崎大/関陽子/増田敬祐編著『自然といのちの尊さについて考える』ノンブル社、2015年、157-202頁)などにおいて用いている概念で、〈共同〉が成立する条件として、人々が互いに〈共同〉の負担を乗り越えるだけの十全な求心力となる動機のこと。

 本書では、それに相当するものとして、「共同のための事実」の共有、「共同のための意味」の共有、「共同のための技能」の共有という三つの条件に加えて、「〈共同〉のための作法や知恵」としての〈役割〉〈信頼〉〈許し〉の原理について言及している。
 

 「〈人間の共同〉における最大の難問は、当事者たちにいかにして協同関係の場に参加してもらうかである。それは共同性を持続可能な形で維持管理・運営していくための〈共同の動機〉をどうやって担保するのかという問いにつながる。つまり、〈人間の共同〉のためには〈持続可能な共同性〉が求められ、それは〈共同の動機〉に持続可能性が備わっていなければ成立しないものである。先人たちは様々な〈共同の装置〉を設けることによって〈共同の動機〉に配慮した。〈参加のインボランタリー性〉もその一つである。」 (増田 2015:187)