ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「おのれの人生の主人公」 【おのれのじんせいのしゅじんこう】


 「なぜならここでは、人々はかつてのように、生まれや育ち、イエや慣習、身体的差異や経済力といったものに縛られることがなく、あらゆる局面において個人の自発性と自由選択が尊重され、その結果、開放的で多数性に富んだ「村」になることが保障されているからである。象徴的な言い方をすれば、そこでは人々は「おのれの人生の主人公」となること、「自由な個性の全面的な展開」が約束されているのである。」 (上巻 257



 日本のマルクス主義、およびマルクス主義に強い影響を受けた人々が好んで用いた表現で、イエや伝統、世間の慣習に加え、国家権力を含むあらゆる権力関係や権威など、人間存在が自らを規定し、拘束してきたさまざまな要因から解放されることで、自らの人生を自らの意思によって主導的に実現していくことを指している(「自由な個性の全面的な展開」とも表現される)。

 本書では〈自己完結社会〉の成立から、その延長線上にある「脳人間」に至るまで、「意のままにならない他者」「意のままにならない身体」からの解放を通じて、この“夢”が着実に実現されてきたことを受けて、皮肉を込めつつ、敢えてこの表現を用いている。