ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「自由な個性の全面的な展開」 【じゆうなこせいのぜんめんてきなてんかい】


 「この時代、“階級闘争”や“労働者の執権”といった論点に代わって、「かけがえのない個人」や「自由な個性」が強調されるようになっていた。なかでも“管理社会”や“全体主義”は、時代を問う論点として改めて主題化され、社会に潜む“権力”や“規律”がもたらす抑圧の問題が繰り返し論じられた。ここで知識人らが訴えていたのは、人間的理想としての「自由な個性の全面的な展開」であり、そうした個人が互いの自由の尊重のもと、新たな形の連帯を築いていくこと……であっただろう。」 (下巻 27



 日本のマルクス主義、およびマルクス主義に強い影響を受けた人々が好んで用いた表現で、イエや伝統、世間の慣習に加え、国家権力を含むあらゆる権力関係や権威など、人間存在が自らを規定し、拘束してきたさまざまな要因から解放されることで、人々が自らの人生を主導的に実現していくことが可能となり(「おのれの人生の主人公」になる、とも表現される)、抑圧されていた人々の個性があらゆる形で花開いていくこと。

 本書では〈自己完結社会〉の成立から、その延長線上にある「脳人間」に至るまで、「意のままにならない他者」や「意のままにならない身体」からの解放を通じて、この“夢”が着実に実現されてきたことを受けて、皮肉を込めつつ、敢えてこの表現を用いている。