用語解説
「共同体批判の共同論」 【きょうどうたいひはんのきょうどうろん】
- 「次に第二の論点となる「共同体批判の共同論」とは、一方では前近代的な社会様式としての共同体に理念的な共同性を見いだしながら、他方では「自由な個性」が埋没しているとして、共同体を批判的に捉える立場のことを指している。 」 (上巻 251)
「自然主義の共同論」、「自由連帯の共同論」と並んで「牧歌主義的―弁証法的共同論」を構成する主要な論点のひとつで、かつて存在した「共同体=むら」に対して、牧歌主義的で原初的な共同性を賛美しつつも、「自由な個性の埋没」を批判する形で二面的な評価を行うもの。
日本の人文科学においては、「共同体=むら」は、丸山眞男や大塚久雄らによって〈自立した個人〉へと至る、より成熟した精神文化の育成を阻む桎梏として位置づけられてきたが、ここでは資本主義社会における人間疎外や人々の私人化、孤立化といった負の側面を批判する際に、一転して、失われた人間本来の共同性を体現したものとして位置づけられるのが特徴である。
この矛盾は「自由な個性と共同性の止揚」によって理論的に解消されることになるが、「共同性の賛美」も「個性の埋没」も、現実の「共同体=むら」に存在した人々の多面性を著しく単純化していると言える。