ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈生の混乱〉 【せいのこんらん】


 「現代人は、自分がなぜ生きているのか、何のために生きるのかといった、生きる意味や実感を容易に得ることができない。……そのような生のなかにあって、どこか嘘臭さがある。……温室育ちのわれわれは、心の何処かで生とは本来、すべてが自己決定されるべきものであると思い込んでいる部分がある。……しかし直面する人間的現実は、結局のところ「意のままにならない生」であるがゆえに、人々は理想と現実とのあいだで引き裂かれ、苛立ち、悩み、傷ついているように見えるのである。本書では、こうした事態のことを〈生の混乱〉と呼ぶ。それは生きる意味と生の実感とに思い悩み、何もかもが実現されるべきだと望むがゆえに、等身大の人間存在を肯定することができないわれわれの姿に他ならない。」 (上巻 ⅴ-ⅵ



 第一の意味として、主に、人々が身体に規定された存在として生きる必然性を失っていく〈生の脱身体化〉の帰結として、人々がこれまで自らの生を規定してきたさまざまな観念、価値、枠組みを失うことで、生のリアリティや生きる意味に混乱を抱えるという事態のことを指す。

 また第二の意味として、〈生の脱身体化〉のみならず〈生の自己完結化〉を通じて、「意のままになる生」が着実に実現していくなかで、「あるべき社会」、「あるべき人間」「あるべきこの私」といった理念が突出し、「意のままにならない生」の現実との乖離において苦しむという事態のことを指している。