ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈歴史〉 【れきし】


 「歴史家ではないわれわれの立場からすれば、このことは次のように換言する方が適切だろう。すなわち歴史と言っても、そこには〈自己存在〉と切り離された一般的な歴史の概念とは別に、〈存在の連なり〉のもとで掌握された“意味のある歴史”、“生きた歴史”というものが想定できる、というようにである。」 (下巻 15



 単なる歴史的事実(知識)の集積としての歴史ではなく、〈自己存在〉へと連なる「意味のある過去」として積み上げられ、〈この私〉にとって強い実感を伴う形で理解された歴史のこと。

 例えばわれわれは中世のある国で引き起こされた凄惨な事件について面白可笑しく談笑するが、それはその事件が〈自己存在〉とは無関係なもの、存在論的に切り離されたものとして理解されているためである。

 こうした歴史は、歴史に居合わせる〈この私〉という起点を欠くがゆえに、いってみれば過去の“死んだ事実”の集積に過ぎなくなる。もしもわれわれが、歴史を「場の連続性」や「〈生〉の連続性」のもとで理解しようと試みているのであれば、たとえ数100年を隔てた異国であろうと、そのまったく異質な文化的、社会的状況において、そこに生きた人々が何を思い、何を願い、そしていかなる偶然と必然の間の中で、その出来事が生じたのかということを問うだろう。