ディスカッション



〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

〈隠者〉 【いんじゃ】


 「しかしそうした人々にとって、“昔ながらの暮らし”ほど嫌悪すべきものはなく、かといって夢や理想があるのだとすれば、それらはすべて“私生活”のなかにこそあった。だからこそ彼らは〈社会的装置〉の〈ユーザー〉となって、浮遊した〈郊外〉に「定住」していく。そしてある人々はレジャーと享楽に埋没していき、またある人々は、世紀末の〈隠者〉となった。世紀末の〈隠者〉たち――それは先に触れたように、騒然とした世相に“ノる”ことができず、享楽の波から脱落した人々のことを指している。」 (下巻 32



 「〈生活世界〉の構造転換」のうちの「第三期:高度消費社会の隆盛からバブル崩壊まで(1970年‐1995年)」の後半に見られた狂騒的な消費社会の影で、その享楽の波に乗れなかった人々を比喩的に表現したもの。

 この時期日本社会は対外的には「経済大国」として認知され、国内でも物質的には繁栄したが、社会的な面ではその矛盾がさまざまな形で噴出していた。例えば学校ではいじめが注目され、家庭では家庭内暴力が騒がれるようになったのもこの頃であり、深刻化する環境問題は人々に世紀末的な不安を駆り立て、心身に疲弊した人々は自己啓発セミナーや新興宗教に走った。

 時代に適応できた人々は繁栄を謳歌したが、必ずしもすべての人々がそうだったわけではないのである。