ディスカッション


未来世界を哲学する―環境と資源・エネルギーの哲学)
未来世界を哲学する
環境と資源・エネルギーの哲学


〈自己完結社会〉の成立(上)
上柿崇英著


〈自己完結社会〉の成立(下)
上柿崇英著

環境哲学と人間学の架橋(上柿崇英 
/尾関周二編)
環境哲学と人間学の架橋
上柿崇英/尾関周二編


研究会誌『現代人間学・
人間存在論研究』

   

用語解説

   

「〈自然〉と〈人間〉の間接化」 【しぜんとにんげんのかんせつか】


 「われわれはここで、この第一の特異点のことを「〈人間〉と〈自然〉の間接化」と呼ぶことにしよう。前述のように、「農耕の成立」以前の世界では、〈社会〉の影響力は限定的であり、最も重要なことは、〈人間〉と〈自然〉の間に働く自然淘汰であった。しかしこの特異点以降、〈人間〉が〈自然〉に及ぼす影響は、常に〈社会〉を通じた全体性を帯びるものとなり、〈自然〉からの影響は、〈人間〉を取り巻くあらゆる「社会的なもの」を通じて緩衝されることになった。つまり〈人間〉と〈自然〉の関係は、この分厚い層をなす〈社会〉を媒介とする「間接的」なものとなり、〈人間〉はここで、自然淘汰の影響を大幅に受けにくくなったと言えるのである。」 (上巻 113



 人類史を〈人間〉、〈社会〉、〈自然〉の三項関係として捉えたときに見えてくる、人間の存在様式の質的変容に関わる第一の特異点のこと。

 「農耕の成立」を起点とするこの特異点を経ることによって、人間の存在様式に影響を与える要素の比重は、自然淘汰ではなく、「人為的生態系」としての〈社会〉に大きく傾くようになった。「農耕の成立」以後にも「ヒト」の遺伝構造が変化していることは、エピジェネティクスを含む、特定の民族集団における体質変化などが物語るが、この1万年もの間、人間の存在様式を変容させている大部分は、身体の変化によるものではなく、「社会的なもの」の変化によるものである。

 高層ビルやインターネットに囲まれたわれわれが、生物学的には未だ狩猟採集時代に形作られた身体を用いていることは驚くべきことである。